観たい映画・ドラマ4本 Part 1 - 月経について -

つい数十年前まで、日本では生理中の女性を隔離する「月経小屋」がありました。月経のメカニズムが解明された現在でも、まだまだ月経を「恥ずかしいもの」と捉えてしまう人も少なくありません。本来は、自然な生理現象として扱われるべき月経。本日ご紹介する映画・ドラマ4本は生理を通じて人間の複雑な感情や関係性を描き出す作品です。オンデマンドや配信で見ることができるので、ぜひご覧ください。


■インド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018年)
【ストーリー】
インドの小さな村で新婚生活を送る主人公のラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻(ラーディカー・アープテー)を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究に日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に……。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリー(ソーナム・カプール)との出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する……。(ソニー・ピクチャーズ公式サイトより)

生理用ナプキン製造機を発明し、職のない女性がナプキン工場で働いて会社の利益を受け取ることのできるビジネスモデルを打ち出した、実在の起業家をモデルにした本作。生理を“穢れ”として扱う風習が残る家父長制の強い約20年前のインドで、男性ながらも女性の衛生業界に革命を起こした主人公の物語に感動します。同時に、生理用ナプキンがなかった時代の女性の生活を垣間見せてくれる作品。

日本よりも生理のタブーが厳しかったインドですが、映画が公開された5か月後の2018年に生理用品の消費税12%が撤廃されました。いまだに生理用品が課税対象となっている日本よりも、変化が速く起きているインドに驚きますが、一方で、まだ約半数の若い女性(15歳〜24歳)が生理用品の代わりに布を使っているという現実もあります(※)。


■アメリカ映画『セイント・フランシス』(2022年)
【ストーリー】
うだつのあがらない日々に鬱々としながらウェイトレスとして働くブリジット(ケリー・オサリヴァン)、34歳、独身。パーティーで知り合った26歳のジェイス(マックス・リプシッツ)とは一緒の時間を共有するも、恋人ではなくカジュアルな関係のつもりだ。そんななか、黒人とヒスパニック系のレズビアンカップルの6歳の娘フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)のベビーシッターとしてひと夏働くことになったブリジット。特別子ども好きではないブリジットはフランシスと格闘する日々のなか、ジェイスとの間に予期せぬ妊娠が発覚してしまう。迷わず中絶を選ぶブリジットが経験したひと夏とは……。(公式プレスリリースより)

全編にわたり10分に1回、主人公が血を流す本作は、生理や中絶を軸にしながらも、仕事や恋愛を含め自分の人生にモヤモヤする主人公が、9歳の女の子フランシスのベビーシッティングを通して成長するハートフルなストーリー。

アメリカでは既に広く使用されている経口中絶薬がどんなものかを知ることもできる本作。日本よりも女性の「体の自己決定権」が浸透しているアメリカでも、生理や性的同意においては世代間のギャップがあることに気づきます。一方、2020年にポーランドでは中絶が禁止され、2022年以来アメリカでは中絶を禁止する州が増えている現状をふまえると、女性の性と生殖の健康・権利は一進一退を繰り返しているとも言えるでしょう。日本では未だに堕胎罪が存在し、緊急避妊薬も高額で、避妊法の選択肢も他の先進国より少ない現状です。


■ディズニー x ピクサーアニメ映画『私ときどきレッサーパンダ』(2022年)
【ストーリー】
いつも“マジメで頑張り屋”のメイは、ある出来事をきっかけに本当の自分を見失い、感情をコントロールできなくなってしまう。悩み込んだまま眠りについたメイが翌朝に目を覚ますと…なんと、レッサーパンダになってしまった!一体どうすれば、メイは元の人間の姿に戻ることができるのか?この突然の変身にはメイも知らない驚きの<秘密>が隠されていた…。そして、様々な人との関係を通してメイが見つけた、本当の自分とは――?(Disney HPより)

レッサーパンダが生理のメタファーとなっている本作は、生理や思春期の心身の変化を恥ずかしいもの・みっともないものではなく、自然なものだという「ピリオド(生理)・ノーマル」や「ボディ・ポジティブ(自分の体をポジティブに受け入れる)」のメッセージを強く発信しています。

メイが自分の心や体に起る変化を受け入れられるようになるにつれ、母親が求めている自分と自分がなりたい自分のギャップに気づいていく……。自己の目覚めも描いたこの映画は、親子で一緒に観たい作品に仕上がっています。


■NHK特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』(2023年)
【ストーリー】
主人公は、生理用品メーカーの情熱的な広報マン、光橋幸男(原田泰造)。高校生の娘と中学生の息子を育てるシングルファーザーだ。半年前、「生理についてよく知ろう!」と幸男が呼びかける動画が「バズ」ったことをきっかけに、「生理のおじさん」として活動している。一躍SNSとお茶の間の人気者となった父親に、思春期の娘・花(上坂樹里)は、複雑な思いを抱いていた……。(NHK公式サイトより)

生理のタブーを打ち破ろうとする男性をとりまく、女性の多様な生理観が非常にリアルなドラマ。正・誤で二極化できない現実社会を見事に描く本作は、生理にはアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)が長年刷り込まれていることに問題提起しています。また、親子のコミュニケーションの難しさもユーモラスに描いており、家族で観たいドラマに仕上がっています。

生理の痛み、辛さ、価値観は千差万別。だからこそ、生理をテーマにした映画・ドラマをみることで、他人の生理に対する理解も深めることができます。上記の4本はどれも希望に満ちたエンパワリングな作品。冬休みにぜひ鑑賞して、生理や人間関係という普遍的なテーマに思いを馳せてみてください。


【参考】
※https://indianexpress.com/article/lifestyle/health/about-50-per-cent-of-women-aged-15-24-years-still-use-cloth-for-menstrual-protection-latest-national-family-health-survey-report-7911145/